密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
「ジオンは物好きだな。俺について来ても得をすることはないのに」

「お言葉ですが、自分は損得でお仕えしていたのではありません」

「だとしても、楽しいことだってないだろ。辺り一面、山と畑だよ?」

「構いません。山であれば自分は林業に。畑であれば自分は農夫にでも転職致しましょう。元は農家の出身でして、田舎暮らしにも慣れています」

「そう」

 試すような空気はいつしか和らぎ、主様はどこか嬉しそうに言った。

「それが君の求める就職先であるのなら、俺が止めることは出来ないかな」

「感謝致します」

「なっ、あ、なあっ!?」

 あろうことかジオンは私の目の前で主様のそばにいる権利をもぎ取っていった。
 なんて羨ましいっ!
 しかも抜け駆けするなんて最低だ。

「主様! 私は、私にはジオンほどの力はありません。ですがこの身も主様の盾になることは出来ます。どうか私もおそばに置いてはただけないでしょうか!?」

 必死に懇願する。でも、私の願いが聞き届けられることはなかった。

「それは出来ない。俺に盾は必要ないんだ。気持ちは嬉しいけどね」

「ですが……ジオンは良くて私はだめなんですか!?」

 もはや体裁に構っていられない。正直に訴えれば主様は言葉を濁らせていた。
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