密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
 翌日、私はジオンとともに再び主様の執務室を訪れていた。
 やけに得意げな表情を浮かべていると、朝からジオンに指摘されている。

 昨日は感情的になって逃げ出してしまったけれど、主様は嫌な顔一つ見せずに迎えて下さった。
 あの後ジオンが口添えをしてくれたのかもしれない。そういう大人の気遣いが出来るアピールも嫌いだ。
 そのジオンは隣にいるはずが、明らかに落ち着きがない。部屋に入る前から「大丈夫か? 本当に大丈夫なのか!?」と執拗に迫られ、そろそろ鬱陶しくなっていた。
 そんな私の癒しは主様。部屋を訪れるなり主様は笑顔を向けてくれたけれど、私の目にはどこか悲しそうに映った。

「サリア、何かやりたいことは見つかったかな?」

 本当にこんなことを願っても許されるの?
 躊躇いが言葉を鈍らせる。けれど密偵の迷いなど主様には筒抜けだ。

「遠慮することはないよ。なんでも願ってごらん。普通の女の子に戻りたいというのなら便宜を図る。もちろんこの仕事を続けたいというのなら新しい主を探そう。君はとても優秀な子だ。望めばなんにだってなれるさ」

 主様はたった一言で私の躊躇いを消してしまう。
 確かな決意を持って、私は主様と向かい合っていた。
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