密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
 会いたい――

「あら、寂しいのなら会いにいけばいいじゃない」

 否定したばかりの願望が音として聞こえた。我ながら正直な願望だ。自分の声にさえ痛いところを突かれた私は答えに躊躇う。

「それは……」

「どうして会いに行かないの? 会いたいんでしょう?」

「私が簡単に会えるような人じゃ……」

 ちょっと待ってほしい。

「私、誰と会話しているの?」

 膝を抱えていると、草の上に何かが落ちる気配がする。
 顔を上げると目の前には白く小さな花が落ちていた。
 それを拾い上げた私は、まさかと視線を巡らせる。想像した通り、そばの木には白い鳥がとまっていた。

「あなたは……」

 寂しかったはずの気持ちが少しだけ安らぐ。そうだ、私にはこの子がいてくれた。
 大きさは前世で言うカラスくらいだろうか。この鳥は不思議と私が幼い頃からそばにいてくれた。
 仕事をしていて危機が迫れば空から知らせてくれる。落ち込んでいると寄り添い、励まさることもあった。それはもう種族を越えて友達と呼べる関係だろう。

「この花、元気を出せと言われているのね。ありがとう」

 そういえば、前世でもこんな風に白い動物を飼っていた。白いポメラニアンだ。
 鳥とはまったく違うけれど、それでも懐かしさが込み上げてくる。

「確か名前は……」

 新しく出来た家族が大好きで、ずっと一緒にいたくて。百年くらい長生きしてほしいと祖母に言った。
 はしゃぐ私に、百という字は「モモ」と読むことが出来ると教えてくれたのは、おばあちゃんだ。
 だから名前は……

「モモ」

 二度と会うことは出来ないけれど、私の大切な家族だった。
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