密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
「あたしが地上に降りている間、運命を守っていたのは妹の女神。運命っていうのはね、些細なことで狂い始めるの。それは次第に大きな歪みになっていく。あたしたちは歪みを正さなければならないでもあの妹は! 最後までさーちゃんの歪みに気付かなかった!」

 モモの話では普通は途中で気付くものらしい。

「その結果、さーちゃんは事故に遭ってしまったの。あの日は何かおかしいとは思わなかった?」

「やけについてないな、とは思ったけど……」

「それよそれ!」

 息巻いていたモモは肩を落とす。

「あたしたちも起こってしまった運命を変えることは出来ない。けど誠意をみせることは出来るってものでしょ!? それなのにっ! 誤って命を落としたさーちゃんを、なんの補助もなくこの世界に転生させたですってあの愚妹!」

 私にはいまひとつ実感がわかないけれど、モモにとっては信じられないことらしかった。

「あの愚妹ときたらっ! あたしたちの仕事は狂った運命の後始末なのに、それなのに!」

 モモは小さいからだでぷりぷりと怒っている。きっと自分のために怒ってくれているのだろう。

「あたしがさーちゃんの死を知ったのは、何時間も経ってから。その頃にはさーちゃんがとっくに転生させられいたの。普通はね、運命の間違いで死んでしまった人間には手厚い待遇があるのよ。あたしは慌ててさーちゃんの魂を確認しに行ったけど、手遅れだった。すでに転生して、生まれてしまった個体にはチートを授けられないのよ!」

「チート?」

「せめて生きるに困らないように魔力値無限大とかにしてあげたかったの!」

 モモはそう言うけれど、この世界には魔法は存在していないような……

「でもそれは出来なかった……だってこの世界は魔法が存在しないから!」

「あ、やっぱり」

「だからせめてもって、人間が生まれながらに持っている力を最大限に引き出せるようにしたわ。後付けだから、あんまり華やかな特典にならなくてごめんねえ!」

 モモには申し訳ないけれど、さすがに理解の限界を超えている。そんな私のために、モモは言葉を選んで端的に伝えてくれた。

「つまり、さーちゃんは望めばなんにだってなれるのよ!」

 その言葉は私を新たな職場へと送り出してくれた主様のものと重なっていた。
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