身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~

「お……お腹が空いて」

 涙声になりかけた琴音に、閑がはっと我に返る。

「そんなものだけじゃ、口の中が渇くだろう」

 何でもない風を装って冷蔵庫からミネラルウォーターを出してくる。その優しさに、本気で泣けた。

「こ、琴音⁉」
「いやあああん、もう恥ずかしい!」

 食べかけの海苔を持った手で顔を隠して、その場にしゃがみ込む。台所の作業台の上には、空になった焼き海苔の袋が放置されていた。

「恥ずかしくない! 腹が減ったら眠れなくなるのは普通だ!」
「そんなわけないじゃん! それは普通でも夜中に焼き海苔一袋食べちゃうのは普通じゃない!」

 ――閑ちゃんの嘘つき!
 その時ばかりは本気でそう思った。しかも翌日、心配した閑が焼き海苔とミネラルウォーターを大量買いしてきたので二重の恥ずかしさだった。

 そんな恥ずかしいところを何度も見られては、琴音も段々と慣れてきたのかもしれない。遠慮をしても仕方がないと思うようになってきた。

 海苔ばかり食べるのは恥ずかしいけど、閑にならいいかと思えるようになった。夫婦でも慣れ過ぎてだらしなくなるのはいけないと言うが、弱いところを見せられるのは夫婦だから、という考え方もある。今は良い風に捉えよう。
< 202 / 239 >

この作品をシェア

pagetop