身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~

 そう考えると、妊娠期間というのは夫婦の絆を築くのにとても良い。これは閑が協力的だからであり、世の中はそんな男性ばかりじゃないのはわかっているけれど。

 暖かい日差しの中、手を繋いで琴音のペースで歩いてくれる。
 こういうのも多分、当たり前ではない気がする。

「いつも合わせてくれてありがと」

 嬉しくなって、琴音の口からほろりとそんな言葉が零れる。閑は一瞬微笑んだが、次には何かを思い出したようだった。

「当たり前のことだし、別に無理はしていない」
「え?」
「津田に言っただろう。無理していないか心配だと」

 ああ、と何の話か思い至った。いつだったか、珍しく閑が家に忘れ物をして秘書の津田が取りに来たことがあった。どういう話の流れだったか、忘れてしまったが。

「……津田さんおしゃべり。だって、閑さん細かいことに気が回りすぎるし心配性すぎるし」
「それはもう性分だと思ってくれ」
「津田さんのおしゃべり?」
「そっちじゃない」

 言い合って、ふたり同時に笑った。あの頃は、確かに無理に自分を気遣ってくれているのではないかと心配だったが、こんな風に話すと琴音が重く考えすぎたのかと思えてくる。
 かといって。

「琴音はもっと甘えていい」

 それもちょっと、違うとも思っているが。


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