身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~

 閑が琴音から離れ、ベビーベッドの中の娘に視線を移す。小さな頭を、大きな手でそっと優しく撫でていた。

「娘ってわかっても喜んでもらえて良かったね」
「当たり前だ。母さんもわかってたはずだ。今はもう、そんな時代でもないって」

 長子を重んじる習慣だったり跡継ぎにこだわったり、そんな時代が確かにあった。それが良いとか悪いとかではなくて、そんな中で育った人には染みついてしまっている考え方もある。

 それらを上手く躱していきながら、自分たちらしく子育てができればいい、と閑とふたりで話し合った。
 わかっている。染谷の両親も決して長子ではない琴音を疎んじたわけではなかった。

「まあ、俺たちは、子供にはもう少し、自由にさせてやろう。な、晴花」

 閑はそう言いながら、娘――晴花を優しく抱き上げた。

「それじゃ、帰ろうか、奥さん」
「今日、平日だったのに大丈夫だったの?」
「いい。津田に頼んだ」
「津田さん可哀想。……あ! お姉ちゃんが、来週休みが取れそうだから晴花に会いたいって……だからもうそろそろ許してあげて」
「……仕方ないな。琴音の姉だしな」

 立ち上がった琴音の腕に、晴花をそっと預けると晴花の頬と琴音の頬に、一回ずつキスをする。ようやく退院できることを、喜んでくれているらしい。
 大きく膨らんだ旅行バッグを手に持ち、病室の窓を背に閑が笑う。その窓から見える、目に沁みるほどの空の青が、今日のこの幸せを象徴するように琴音の記憶に焼き付いた。

 この青を見るたびに、きっと琴音は子供に話して聞かせる。
 あなたを産んだとき、ママはこんなに幸せだったんだよ、と。


END

< 233 / 239 >

この作品をシェア

pagetop