溺愛旦那様と甘くて危険な新婚生活を



 1年ぐらい前から、不思議な注文をされるお客さんから電話が来るのだ。
 始めは、珍しい注文だと思ったが、週に1回のペースで電話が来るため、この花屋では普通の事になっていた。


 この日は、栞のフラワーアレンジメントの教室もあり、忙しく時間が取れたのは日が沈む前の夕方の事だった。
 春になって来きて、昼間は暖かい風が吹いていたれど、夕方になると肌寒い。花霞は自分が作った花束を確認した後、薄手のコートを羽織って店を出た。栞に「気を付けてね。」と見送られながら、紅く染まった街中を、急ぎ足で歩いた。

 今日は、白を基調とした花束にした。
 夕日に映えるのはどんな色だろうか。そして、色とりどりの服を着た達が溢れる春の街で、ひっそりと咲いている花はどんなものが似合うだろうか。考えてすぐに浮かんだのは、「白」のイメージだった。
 夕日に染まる白。春の街を邪魔しないけれど、凛としたイメージの白。

 この注文で花を作る時。何故か自然と白の花を選んでしまう。
 その理由は、花霞にはわからなかった。


 店から15分ぐらい歩いた頃。
 花霞は目的の場所に着いた。
 そこは、変哲もない街の中の一角。大通りだけれど、そこまで人通りが激しい場所でもない。小さな店が立ち並ぶ街のある交差点の少し手前の歩道だった。

 そこには、小さな花瓶に入った少し枯れてしまった花束。
 その花束を1週間前の花霞が、そこに飾ったのだ。
 花霞は、その場所にしゃがみ、目を閉じ手を合わせてから「失礼します。お花を変えに来ました。」と小さな事で語りかけるように言った後、その枯れかけた花束と持ってきた白い花を交換した。
 花瓶の水を変えた、汚れを落としたりして、綺麗した。その頃、太陽が完全に見えなくなる一歩手前だった。
 


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