溺愛旦那様と甘くて危険な新婚生活を
「椋さんは花は詳しくないんですね。」
「そうだね。チューリッブとかタンポポとか桜とか……定番のものしか知らないかな。男の人はそんなものじゃないかな。」
「確かに、そうかもしれませんね。」
「花霞ちゃんが好きな花とかは覚えたいから教えて。あ、その色が鮮やかな花。綺麗だね。好きかも。」
ペラペラと捲っていた図鑑で気になったものがあったのか、椋はあるページを指さして教えてくれた。
そこには、赤や白、そして紫色の花があった。花霞ももちろん知っている花だった。
「この花は『アネモネ』ですね。春の花ですよ。この花びらに見えるところが花びらじゃなかったり、葉っぱや茎に毒があったりと、少し不思議な花なんです。」
「毒………。」
「毒って言っても、そんなに強いものじゃないですけどね。」
椋は花霞の言葉を聞いて、何故か神妙な雰囲気でアネモネのページを見つめていた。
そして、しばらくすると苦笑しながら呟いた。
「毒がある花に、『はかない恋』か………俺にピッタリな花だね。」
『はかない恋』とは、アネモネの花言葉だ。椋はそれを図鑑で見つけたのだろう。
「え…………。そんな事ないですよ。毒なんて、椋さんにあるはずないです。それに………そんな事を言わないで……。」
どうして自分の事を悪く言っているのか。
そして、はかない恋なのか。
彼が理由を言わなくてもわかる。
椋との結婚には時間が限られているのだ。幸せな時間もまた、残りが少なくなっている。
けれど、別れたいと願わなければ続くものだと信じていた。
それなのに、彼の言葉はいつもまるで続きがないような言い方なのだ。
花霞は咄嗟に彼の腕をつかんでしまう。
すると、椋は驚いた顔を一瞬見せたけれど、すぐに眉を下げて小さく笑った。
「ごめん。花霞ちゃんを不安にさせたいんじゃないんだ。………幸せすぎるから、これがずっと続くわけないって思ってしまうんだ。こんな満ち足りた日々は初めてだから。」
「私も同じです。…………私も。」
「うん。嬉しいよ、ありがとう。」
椋は、いつものように優しく微笑み、花霞を抱きしめてくれる。
けれど、少し前からあった不安は、大きくなっていく。それが怖くて、花霞はギュッと強く目を瞑ったのだった。