溺愛旦那様と甘くて危険な新婚生活を
「お疲れ様でした。お先に失礼しますっ!」
「お疲れ様ー。花霞、頑張ってねー。」
「ありがとう!」
仕事をしがら声援を贈ってくれる栞に手を振って、花霞は職場を後にした。
いつもより早足で最寄りの駅まで向かう。
頭の中には、これからスーパーで買うものを考えていた。時間があったらデザートを作ろうとも考えていた。甘さ控えめのガトーショコラなら男の人でも喜んで貰えるだろうか。
そんな事を考えて、また一人で微笑んでしまっていた。
いつも仕事帰りはヘトヘトになって帰る道のりも、今日は体が軽く感じており、花霞は小走りで駅の改札を抜けようとした。
「花霞。」
「…………ぇ……………。」
ざわざわとした人混みの中。
とても小さな声だったのに、はっきりと自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
そして、花霞はその声を知っていた。
ドクンドクンッと、鼓動が強くなる。
その場から逃げてしまいたい衝動にかられたけれど、その声の主がゆっくりと近づいてくるのがわかり、花霞は体が固まってしまった。
ゆっくりと視線をあげて、花霞の名前を呼んだ人の方を恐る恐る見つめた。
そこにはボサボサの茶髪に、タイトなTシャツに黒のジャケット、穴の空いたジーパンを履いた、目つきの悪い男が立っていた。
「………玲………。」
震えてしまいそうな声をなんとか堪えて、小さな声で花霞がその男の声を呼ぶ。
すると、玲はニヤリと笑って、「久しぶりだな。」と微笑み花霞に近づいたのだった。
花霞の頭の中には、もう夕飯の買い出しの事など何一つ考えられるはずもなかった。