【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
「おじゃましまぁす」とスリッパを揃えて部屋に入った。所々擦り切れた畳の上に荷物が散乱している。


ここは男子の部屋!って、部屋が言っている。


あたしの視線は片隅で荷物をまとめている灰野くんへとすーっと移っちゃう。


……改めて見る、部屋着姿。
緩い半そでシャツから覗く自然光に抗わない色の腕。


ナギちゃんや山本君がどたばたと荷物をひっくり返したり片付けたりするのと相反するように、優しい動きで教科書をしまう灰野くん。


……好き。


きっとあたしは、灰野くんの何をみてもそう思うんだろうな。


さっぱり、手が届かないのに。



「あったあった!」


山本君の弾む声に目を向けると、トランプとウノを掲げていた。


「それ探してて、こんなに散らかったわけか」


彗がやれやれっと苦笑いしている。


「片付け手伝うね。なにしたらいい?」


「じゃあそれ適当に詰め込んどいてくれる?」


山本君の鞄に教科書やノートを揃えて入れていく。ぎりぎり入った。


あー、なにこれ。
可愛い。


「これも山本君の?」


頭にお花のついた愛らしい顔をしたシロクマのマスコット。
金色のチェーンをつまんで持ち上げる。


「……あー、それは……」


「ん?」


「ううん、俺の。ちょうだい」


にかっと笑う彼はまっすぐ手を伸ばす。その上にシロクマを座らせた。


真正面からみたマスコットの体に刺繍された文字になんとなく目がいって、なんとなく声に出した。


「……HA、NA。」


”花”?


全自動的にシロクマから灰野くんへと目が移る。


山本君が握りつぶす勢いで隠したマスコットは、絶対に灰野くんのものだ。

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