偽装ウエディング~離婚前夜ですが、抱いて下さい。身ごもりましたが、この子は一人で育てます。~
「お帰りなさい…玲人さん」

私は国際線の到着口で待った。

「ただいま、杏花」

玲人さんは一人でキャリーケースを引いて出て来た。

「村上さんは?」

「今回は僕一人での一時帰国です…」

半年ぶりに見る玲人さん。

ダークブラウンのスーツに薄手のベージュのステンカラーコート姿。

長身の彼には丈の長いロングコートが似合う。

「行きましょうか…」


「はい」

私と彼は並んで歩き出す。

「髪の色が違いますね…」
「あ…先週…カラーリングしました…」
黒に近いダークブラウンのカラーリングで、ほとんど分からない色だけど、玲人さんには分かった。
彼が私のちょっとした変化をちゃんと見ているんだと思うと嬉しくて仕方がない。
「そうですか…良く似合ってますよ」

「はい」
彼に褒められ鼓動が跳ねる。
彼の一時帰国は例外。

日本に帰って来てても、それは一時的なコト。すぐに彼はドバイに帰ってしまう。

初めて、彼が帰国したのはドバイに行って三ヵ月後だった。

突然の離婚日が来て、私は驚いたが。
それは例外だと彼は言った。
一時帰国の日は私達の離婚日ではない。

それを知った私は彼に女をアピールするチャンスだと思い、こうして、キレイに着飾り、彼の気を引こうと頑張っていた。

彼が欲情するように・・・
でも、彼は素っ気ない。
他の男性の視線は感じるのに、肝心な夫の玲人さんは全くダメ。
ポーカーフェイスで私を見るだけ。
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