金環食をきみに
「修ちゃん、ねえ、これいいかも」
週末で混み合う商業ビルの熱気のせいか、それともやはりこの高揚感に酔っているのか、ショーケースの中を指輪をのぞきこむ橙子の頬は紅潮している。
「――――まあ、悪くないんじゃない」
心が動かされたとき、俺はいつもそんな素直じゃない言い方をしてしまう。手放しで飛びつくことができないのは、損な性分だと自分でも思う。
そうだ。6年前に橙子に告白されたときも、はちきれそうな喜びを胸に隠して「まあ、悪くないね」と答えたのだ。

商魂たくましそうな年配の女性店員は、目で合図をしただけですぐさまやってきた。密着してショーケースをのぞくカップルたちを掻き分けるように近づいてくる。
「ご成婚ですかあ? おめでとうございますー」
と語尾を跳ね上げながらショーケースの扉を小さな小さな鍵で開けた。
「どちらをお試しになりますか?」
「これで!」
橙子が指差したのは、プラチナの方だった。
「かしこまりました、号数の方は…」
「いや、金だろ」
俺は店員の案内をさえぎって言った。
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