金環食をきみに
婚約指輪という小っ恥ずかしくて金のかかるものは割愛して、俺たちは結婚指輪を買いに行った。
一生使うものだし、そのくらいはちゃんとしなきゃな、という意識のもとに。

ティファニーがいい、いやカルティエだ、いやいや予算優先で。
ブランド選びの段階で俺たちの意見は激突し、結局、百貨店のジュエリーショップを片っ端から見て回ることになった。
ショーケースの「マリッジリング」と書かれたコーナーをのぞいては、何か違う、いやこれいいじゃん、と言い争う。
そんなことさえ非日常的で楽しくて、ああこれが結婚前の高揚感というやつか、と俺は橙子の白くてほっそりした指先を見ながら思った。
すっかり見慣れた恋人の身体の中で、その指は俺のとりわけ好きなパーツだった。

ジュエリーショップのひしめくフロアをちょうどひとめぐりする頃になって、ようやく俺たちはふたりとも同時にビビッとくる指輪に出会った。
聞いたことのあるようなないようなブランドのマリッジリングコーナー。
全体が微かにシェイプされたデザインは飽きのこなそうなもので、素材感もひと目で上質とわかる。
一生身に着けるのに最適な指輪だ、と直感で思った。
まったく同じデザインのものが、「Gold」と「Platinum」で用意されている。
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