女嫌い公爵との幸福なる契約結婚生活
(ブライアン様は、もうご結婚なさったのだわ……)

アイリーンの心は、鋭い刃でひき裂かれたかのように悲鳴を上げた。アーチボルド侯爵家に子息はおらず、子女が二人と聞いたことがある。けれども姉は現国王に見初められ、王家に輿入れした。そのため妹の夫となったブライアンが、必然的に侯爵家を継ぐことになったのだろう。

ブライアンは、知らない女性の夫となったのだ。アイリーンの恋人だった頃の彼は、もうどこにもいない。

「従兄弟は少々照れ屋なところがありまして。アイリーン様に自らお話を持ちかけるのを、躊躇しておりました。そこで僕が、代わりにお伺いしたというわけです」

「そうだったのですね」

「それから輿入れの準備に必要な資金は、全て彼が用意するとのことでした。金銭的なことは、何もご心配なさらないでください」

「ああ、なんとありがたい。頑固者で行き遅れの娘を貰っていただくだけでもありがたいのに……」

歓びのあまり、父が涙ぐんでいる。





女性の結婚適齢期は十七歳とされているこの国で、二十二歳のアイリーンは完全に婚期を逃していた。

とはいえ、今までも結婚の機会がなかったわけではない。サラサラと流れる薄い金色の髪に、見る者を穏やかにする薄茶色の瞳を持つアイリーンは、派手さはないがそれなりに世の男性を引き付ける容姿をしているらしい。

それに地位や財力がなくとも、働き者のアイリーンを妻にと望んできた者は、これまで数人いた。

そのたびにアイリーンは、どうにかしてその申し入れを断り続けてきた。それはブライアンという秘密の恋人がいたからなのだが、事情を知らない両親には選り好みの激しい頑固者と思い込まれているようだ。
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