したたかな恋人
第20話 ただ一つの誤算
お店を出た後、なんとなく圭司は私の家に、転がり込んだ。

「はぁはぁ……」

首元に圭司の息がかかる。

「由恵。君がたまらなく欲しいよ。」

「圭司……」

そのままベッドに吸い込まれ、圭司の腕の中に抱かれた。

「由恵。どうしたら、君に俺の気持ちが分かって貰えるだろう。」

私を抱きながら、そんな切ない言葉を吐いた圭司は、無我夢中だったのかもしれない。

「由恵。君が好きだ。誰よりも愛してる。結婚したいのも君だけなんだ。」

甘い吐息の中で、私の目から涙が零れた。

嘘の中の本当なのか、真実の中の嘘なのか。

私には判断がつかなかった。

朝までそんな甘い時間が過ぎ、目が覚めると朝陽の中、私は圭司の腕の中で眠っていた。

「おはよう、圭司。」

そう言うと、圭司は目を覚まし、ニコッと笑ってくれた。

「おはよう、由恵。」

昨日の夜の甘い一時は、まだ続いているようだった。


「起きましょう。朝ご飯にするわ。」

「ああ。」

私は起き上がると、下着を履き、パジャマを着た。

圭司は下着を履いて、シャツを着た。

お互い楽な恰好。

それでよかった。

私は冷蔵庫にある物で、朝食を作った。

「それで?ようやく本当の事、話す気になったの?」

そう聞くと、圭司はコーヒーを一口飲んだ。

「俺の仕事、どこまで聞いてる?」

「別れさせ屋だって、明日実ちゃんに聞いたわ。」

「そうか。その名前が一番合ってるかもな。」

「本当は、何て言うの?」

「探偵。男女関係専門のね。」

「へえ。」

意外にまともな名称に、私も頷く。

「由恵の依頼は、奥田課長の奥さんからだった。」

「うん。それも聞いてる。」

「何でも聞いてるんだな。」

「でも詳しくは、聞いてないわ。」

「もう知ってるようなモノだよ。一般的な依頼。夫は不倫をしている。相手と別れさせてほしいってね。」

「……奥様は、私達の関係を知っていたのね。」

「知ったのは、依頼したちょっと前だったみたいだけどね。大恋愛の末結ばれたから、ショックだったと言っていた。」

「そうよね。私は、悪い事をしたわ。」

好きだからと言って、将成さんと一緒にいた日々。

その中で、苦しい日々を送る人がいたのだ。

「そこで俺は、由恵が働いている会社に就職した。」

「依頼の度に、就職しているの?」

「いや、今回は初めてだった。由恵は一人前に仕事をこなす、一種のキャリアウーマンだからね。生半可な職歴では騙せないと思っていた。案外、前職と同じプランナーだったからね。すんなり就職もできたよ。」

「前職が結婚式のプランナーだって事は、本当だったのね。」

「ああ、そこは嘘をつけなかったよ。」

私と圭司は、顔を見合わせた。

「信じて貰えないと思うけれど、一目惚れだった。君を見て、まず心を奪われたよ。」

「初日にコーヒーを溢したのに?」

あの日の事を思い出して、笑ってしまった。

「コーヒーを溢された時には、チャンスだと思った。これで由恵との接点を作れるってね。」

そんな話をされて、私は恥ずかしくなってきた。

自分に惚れた話なんて、聞くもんじゃない。

「最初は、依頼を完結させよう。それだけだった。でも由恵の魅力に惹かれて、それだけじゃ足りなくなった。課長と別れた時、依頼が成功したと言うよりも、君と付き合えると思った。」

「圭司のあの口説き文句は、嘘じゃなかったのね。」

半分茶化しながら言うと、圭司は手を伸ばした。

「ああ、本当だよ。あれは全部本当の気持ちだ。」

私も手を伸ばし、圭司の手を握った。

「疑ってごめんなさい。圭司には圭司の、事情があったのにね。」

「いや、俺が悪いんだ。由恵には、話すべきだった。妙子の言葉に、惑わされずに。」

「結局、妙子さんとはどんな関係なの?」

私は圭司の顔を覗き込んだ。

「妙子は、仕事仲間だよ。仕事用にあの写真を撮ったんだ。別れさせ屋は一歩間違えれば、ストーカーに追われる危険性があるからね。ちゃんと恋人がいるって示すためにも必要な写真だったんだ。」

「それを私は、本当に疑ってしまったのね。ごめんなさい。」

すると圭司は、私の手を口元に当てた。

「これで全部だ。全部話した。君にもう嘘はつかないよ。」

「ありがとう、圭司。」

「そこでだ。」

圭司は一度深呼吸をした。

「改めて言うよ。俺と結婚してくれないか。」

私は、胸が熱くなった。

「ターゲット相手に結婚を考えるなんて、バカげていると思う。でもこんなの初めてなんだ。」

そして私は、うんと頷いた。


偶然と言う名の、必然の出会い。

その中で一つの誤算があるとすれば、私達が出会った事。

私はもうこの恋を、放したりはしない。

だってこれは、神様がくれた運命の出会いだと思うから。



ーEndー
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