間宮さんのニセ花嫁【完】

間宮千景は迷走する




玄関扉を開けるとそこに百瀬くんの姿はなく、どこからか飛んできた木の板が風の力によって扉にドンドンとぶつかっていただけだった。
予想を裏切る状況に呆気に取られていると視界がパッと明るくなった。どうやら間宮さんがブレーカーを戻してくれたみたいだ。

安全の為に手に持っていたスマホが震える。確認すると百瀬くんから「帰ろうと思ったが嵐が酷く、マネージャーに止められた」というものだった。


「飛鳥」


不意に掛かった声に振り替えると彼が安心したような、それでいて困っているような複雑な表情で立っていた。


「部屋に戻ろう」


何事もなかったかのように話しかけてくれる優しさは彼の好きなところに一つだが、今の私には酷く残酷に思えた。



その日の朝、嵐が去り無事に桜さんたちが家に帰ってくると四人で彼女が作った手作りをおせちを囲み、新年の挨拶を交わした。
それから暫くして間宮さんとちゃんと話すことなく実家に帰ってしまった私は、あれから彼とは一言も話すこともなく仕事初めを迎えてしまった。

そう、遂にこの日が来てしまった。


「突然だが間宮は来月をもって退職することになった」


仕事初めの日の朝礼で課長から告げられた言葉に会社全体に激震が入った。
みんなの前で会社を辞めると説明を行っている間宮さんを見て、弥生が私の肩を掴んで大きく揺すった。


「ねえ! ちょっとなにあれ! どういうこと!?」

「ま、間宮さんが会社を辞めるってことだと思うけど」

「なんでそんなに落ち着いてるの!? 前から知ってたわけ!?」

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