お忍び王子とカリソメ歌姫
「では、確かに」
 二日後。サシャの完成させた手紙をまじまじと見て、裏側もひっくり返して、おまけに封がきちんとされているかまで確認してから、おつきの彼は受け取ってくれた。
「よろしくお願いいたします」
「近日中にご連絡いたします」
 落ち合った、街の片隅。その挨拶を最後に、停めていた例の馬車に乗っておつきの彼とそのご一行は帰って行かれた。自分でおっしゃっていたように、忙しいのだろう。
 これから隣町へ行き、そのまま港から船に乗ってミルヒシュトラーセ王国へ帰るのかもしれなかった。それはお疲れ様、なのだけど。
 自分は今度、それ以上に『お疲れ様です』な事態になってしまいそうなのだ。見送ってから、盛大に肩を落として、はーっとため息をついてしまった。
 手紙の返信。当たり前のように『わたくしでよろしければ、謹んでお請け致します』となった。それ以外ないではないか。
 それに対するキアラ姫の返事も決まっている。『ありがとう。嬉しいわ』そのあとはきっと、お茶会の詳細についてのお話になるのだろう。場合によっては一度お会いして打ち合わせをしたりということもあるのかもしれない。
 なんにせよ、心構えだけはしておかないと。
 心に決め、その足でサシャはカフェ・シュワルツェへ向かった。シャイにひとこと報告をしておかなければいけない。事後報告になってしまったとしても。
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