しずくの恋
「最初はうまく型を決められないかもしれないけど、

練習重ねると、りり花みたいに自然と体が動くようになってくるから」


館長のその言葉に、杏ちゃんが目を輝かせる。


「吉川さんみたいに出来るようになるまでに
どのくらいかかりますか」


琴ちゃんも惚れ惚れとした瞳で吉川さんを見つめている。


「あー、りり花は小学生のころからやってたからな。

うちの高校生の一番手の颯大と、小学生のころに同等に張り合えたのは

りり花だけだったからな」


「颯大には全然かなわないから!」


真っ赤になってそう言った吉川さんは、

可愛らしい顔立ちのなかに、
芯の通ったまっすぐとした強さを感じさせる魅力的な女の子だった。


笑った顔は女の子らしくてすごく可愛いけれど、

空手をしているその姿は凛としていて、
キレのある動きで技を決めていく姿はとてもカッコいい。


明るくてサバサバとしている吉川さんは、

道場のなかにいても男子のなかで怯むことなく
稽古に参加している。


流山くんと吉川さんは、小学生のころからの知り合いだって言ってた。


流山くんのことを“颯大”って呼べる関係なのが
羨ましいな…


道場の一角ではまだ流山くんが小学生を指導している。


学校では見たことのない流山くんの厳しい目つきや凛とした立ち姿に、

自分も恥ずかしい姿は見せられないと、

自然と緊張感が高まる。


なにより流山くんと同じ空間で、

流山くんの好きな空手を体験できているということが、

嬉しくてたまらない。


空手が上手になったら、
流山くんに少しは近づけるかな?


型を教えてもらいながらも、
ドキドキとした気持ちは増すばかり。


慣れない空手の型のためなのか、
流山くんのせいなのか、指先が震える。

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