想いをのせて 【ママの手料理 番外編】
寂しそうで、苦しそうで、けれど全てやり切ったような、清々しい表情で。




『お前らと家族で、すげぇ楽しかった。仁にこの事を伝えといてくれ。……俺は消えるけど、もしまた会えたら…、その時は宜しくな』




その言葉通り、壱さんは居なくなってしまった。



いや、本当に彼が仁さんの中から消えたのかは分からない。



仁さんの中に存在しているけれど、出てこないだけかもしれない。



それでも、彼が“消える”と言ってからの1ヶ月間、私が壱さんの姿を見ていないのも事実で。




「…壱さんに、なれないの?」



私なんかよりも、例え二重人格だろうと自分の双子の弟の事を愛していた仁さんの方が、何倍も何十倍も辛い事は百も承知だけれど。



「っ………、」



「壱、さんに…、会いたいのっ…!会いたいよっ……、皆会いたいって言ってるの、…会わせて、会わせてっ………!」




そもそも、1ヶ月間も彼の姿を見ない事なんて無かったせいで、私達家族も最初は困惑していた。



何度も仁さんに向かって“壱”と呼び掛けても、壱さんが必要な場面で壱さんが出て来る事を待っていても。



彼は、何をしても出て来なかった。



その事実が、“壱さんが消えた”という事で。
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