琥珀の中の一等星
「ねぇ! これかわいくない?」
 ミアが手に取ったのは、ピンク色の髪留めであった。紺色の髪のミアは、大概の色が似合ってしまう。赤も、白も、そして今回のようなピンクも。
 敢えて言うなら同系統の紺色などの深い青色は、髪色に溶け込んで馴染みすぎてしまって、快活なミアには少しおとなしすぎる印象になってしまうくらいか。その点、つまり色の選択肢はライラとは真逆であった。
「かわいいね。ちょっとまとめてそこに留めたらいいと思う」
 シャウラがそれを覗き込んで、提案した。ミアは頷いて、髪にそれを当ててみた。紺色にピンクがよく映えて、シャウラだけでなくライラも「似合うと思う」と心から言った。
 背の低いミアはキュートな印象を持っているので、ピンク色でかわいらしさを出すのもぴったりなのである。決断も早いミアは「じゃ、これにしよ! すみません、これいくらですか?」と露店のおじさんに髪留めを差し出していた。早々と収穫物を得たミアは、ほくほくとした嬉しそうな表情で、それを見ているだけでこちらまで明るい気持ちになってしまうのだった。
 それからもいくつか露店を見て回ったものの、特に強く「欲しい」と思うものはライラには無かった。予定通り髪飾りが欲しかったのでそれを重点的に見たのだが、一目惚れ、といえるような強い印象のあるものは見つからなくて。少し残念に思いつつも、露店の通路を歩いていくうちに目に留まったのは、まるで違うものだった。
 それは小さなネックレス。おとなしめの暗めの金色の月のモチーフがトップについていた。
 その月の表面に、小さなオレンジ色の石が三つ嵌められている。細いチェーンで繊細な印象だった。
 チェーンは少し長めだったので、鎖骨のあたりまできそうである。控えめながら、きちんと存在感はあり、そしてとてもうつくしかった。
「それ、気に入ったの?」
 ひょいっとミアが覗き込んできた。
「うん。綺麗だなって」
 ライラの手元をしげしげと見て、そして月を少しつついた。
「ライラの髪は先のほうが水色強いし、オレンジ似合うよね。ちょうどいいんじゃない?」
「うん。目立ちすぎなくて上品だと思う」
 シャウラも肯定してくれる。友達二人にも『良い』と言われれば余計に気に入ってしまって、値段も手ごろだったことも手伝ってライラはそれを購入した。袋に入れてもらったネックレスをバッグに入れて、良いものを見つけられたことに心は華やいだ。
 そのあとも雑貨を扱う露店のほうへも行ったし、手作りの石鹸や化粧品を扱う店も見た。結局三人ともいくつも買い込んでしまって「散財しちゃったー」なんて笑い合った。
 最後にお母さんへのお土産、ということで少し珍しい薔薇のジャムを買った。薔薇を煮詰めたジャムは薫り高くて、紅茶に入れるととても美味しいのだ。
 たくさんのものを手に入れたけれど、でもやっぱり一番の収穫は、最初に目に留まった三日月のネックレス。帰ったら早速つけてみよう、と途中でミアとシャウラと別れてから、ライラは家路へついた。
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