琥珀の中の一等星
秋の日の『デート』
「悪い、待たせたか?」
 どきどきと待つうちに、リゲルがやってきた。当たり前だが、仕事に行くときとはまったく違う服装で。
 教会で会ったときの格好に少し似ている。パンツにベストを合わせていた。あのときと違うのはパンツが少しだぼっとしていて、カジュアルさが増しているあたり。街中には相応だろう。
 仕事用の、肩から担ぐ大きなカバンもない。財布やハンカチなどはそのままポケットに突っ込んできたようだ。年頃の男性がそうするように。
「おはよう。ううん、まだ時間じゃないじゃない」
 朝の挨拶をして……もう昼近くなのだが、一応、今日初めて会うので「おはよう」だ……時間についてはライラは首を振った。
 待ち合わせ場所、広場の噴水前。少し離れた場所にある時計は、待ち合わせ時間の午前十一時より少し前を指していた。
 待ち合わせは十一時だったのだ。遅刻などではない。でもリゲルは言った。
「でもお前、待ったろう」
「待ってないよ」
 待っていたかいないかと言ったら、待った。十分以上前からここにいる。
 だって、遅れるわけにはいかないではないか。せっかくのデートなのだ。恋人同士ではなくとも、少なくともデートに似たようなおでかけなのだ。リゲルを待たせて嫌な印象を与えてしまっては困る、と早めに来た。
 それ以外にも、気が急いてしまって。
 早く会いたいとか。
 待っているのがもどかしいとか。
 恋をしている少女としては当たり前の感情で、そんなに早く来てしまったのだ。
「……そうか? なら、いいが」
 「待ってない」と言ったものの、リゲルはライラが多少はこの場所に立っていたことを察しただろう。それでもそう言ってくれた。「待った」「待ってない」のやりとりを続けるのも不毛だからだろう。
「じゃ、行くか。こないだ見つけたメシ屋でいいんだよな?」
< 42 / 74 >

この作品をシェア

pagetop