花のようなる愛しいあなた
暖かく春の日差しが心地良い朝だった。
河には魚が泳ぐ影が見える。
川岸には花が咲き乱れ、空には鳥が舞っている。

「うわぁ、きれいだなぁ」
秀頼は感嘆の声をあげる。
物心ついた時から大阪城の中にあって堀の周りを舟で周遊したことはあったが、こんなに遠出したのは初めてである。
見るものすべてが珍しく、心がつい弾んでしまう。
これから妖怪のような家康と対峙しなければいけないのに…。
「そうでございましょう?
私が申した通りこの辺りは治安も良く景色も美しうて」
片桐は嬉しそうにしている秀頼を見て目を細める。
「あれは何だ?
物置小屋みたいなのが集まっているが?」
「あれはこの村の民家でございます」
「…それは失礼した…」
「初めてご覧になったのです、分からなくて当然にございます」

お可哀想に…。
このような普通のことを教えてももらえずに
今まで城の中で閉じ込められていたのだ…。
片桐は秀頼を心底不憫に思った。
私がいろいろ教えて差し上げねば…!!
片桐は船から見えるもの逐一説明をしてあげた。

秀頼が見るもの全て物珍しいように、周辺に住む住人達にも秀頼の姿も珍しく貴重なものに映った。
淀川は交通路として栄えている河川ではあった。
秀頼の警護のため河川に沿って兵がずっと配置されている。
この辺の村では兵士たちが休憩に使う場所や食事などの提供も担っているため、「偉い人」が近くを通ることは住人達にも知れていた。
しかしながらここまで多くの従者が付き従う美しく飾られた舟は初めて見るものであった。
もしかして豊臣家の若殿様なのではなかろうか?
どのようにお育ちしたのだろうか?
徳川を追い払い我々に穏やかな暮らしをさせてくださるのか?
自然と人が集まって来る。
秀頼は御簾越しで見えないが、美しい装備で控えている重成は注目の的だった。
「従者の方でさえあのお美しさだ。
殿さまはもっとすごいに違いない」
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