花のようなる愛しいあなた
「ねぇねぇ、中井なんとかとかいう徳川の大工のせいで幾つか通路塞がれちゃったし、この機に新しい秘密通路作ることにしたわ!」
城内の工事に際し、淀殿は秀頼に言った。
「なんかもうね、不安でしょうがないのよ!」
「わかりました、考えてみます」
「大丈夫、手は打ってあるから!」

淀殿はそういって、おばば様に客人を連れて来させた。
しばらくすると、おばば様に案内されて源次郎と呼ばれる小汚いけれど逞しい身体と精悍な顔つきをした50歳超えたくらいの男がやって来た。
「源次郎、久しぶり!
すっかりオッサンになったわね」
「茶々は変わんないなぁ。
美魔女が過ぎるだろ」
「口も達者になって」
「いやいや、俺は思ったことしか言えない男だぜ?」
「ふふ、どうだか」

再会を喜ぶ2人に千姫と秀頼はちょっと戸惑っていると源次郎と呼ばれた男が丁寧に頭下げた。
「失礼いたしました。
お方様の古い知り合いで源次郎と申します。
城の改修工事を担当させてもらいます」
「源次郎…殿…
どこかでお会いしてますよね…?」
秀頼が尋ねると源次郎は遠い目をして
「まぁ大坂城には昔、頻繁に出入りしてましたから、どこかではお会いしたこともありましたでしょうなぁ」
と言った。

淀殿によると、かつて大工棟梁の中井(父)が作った大坂城に秘密通路やら抜け穴を勝手に作り出したのは源次郎だったという。
「なんか上手いことやってみますわ」
源次郎は城内を数日歩き回った後、穴太衆(あのうしゅう)の若い者を何回かに分けて呼び少しずつ城の改修工事を行なった。
穴太衆や大工職人達は守秘義務が課せられるが、今の状況下でどこまで信じられるかはわからない。
なので、全体把握をさせない為、少しずつ毎回違う職人に工事をさせた。

「お義母様はどうしてそこまで秘密通路にこだわるんですか?」
千姫は追いつめられたような淀殿の表情が徐々に和らいでいくのを感じていた。
「城攻めの怖さって体験した者にしかわからないのよね。
人が作ったもので絶対なんてないのよ。
だから工夫に工夫を重ねて少しでも安全にしておきたいの。
備えがあれば憂いも少ないわ」
「あの、源次郎さんって方は信用できる方なんですか?」
「彼は…恨みと執念だけで生きてるような男だから…」
淀殿は呟くように言った。
「だから大丈夫よ」
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