花のようなる愛しいあなた
完子を載せた輿はゆっくりと京へ進んでいく。
淀川へ入り川を上っていく様子を秀頼と千姫は天守閣の上からずっと見えなくなるまで見送った。


翌日からの完子と由衣の抜けた朝食はとても寂しいものに感じた。
ぽっかりと穴が開いたような気持ちってこういうことか、と千姫は学んだ。
寂しさを紛らわせるためか、いつものようにおばば様と美也は他愛のない話をして盛り上がっている。
そうか、みんなを寂しくさせないように気遣ってくれていたんだなぁと千姫は気が付いた。
こうして思いやりながら家族になっていくんだなぁと。

夕食後の自由時間もちょっと寂しいものに感じた。
重成が神妙な面持ちで言う。
「完姫から重要な絵図を手に入れた!」
「?」
「じゃーーーーん!!!」
重成は懐から絵図を取り出して広げた。
「城の隠し通路と地下通路のありかだ」
千姫は目が輝いた。
「すっごーい!
いっぱい探検できるね!」
「そういうことだ!
この絵図が正しいかどうか検証する!」
「おお!!」
ノリノリな千姫に対し、松はちょっと怖がっていた。
重成がフォローする。
「ただし、危ない場所もありそうだから
・探検するときは、絶対みんなでやる
・屋外は暖かい季節&外が明るい時に行う
これを守ってやるぜ!いいか!?」
「おお!!!」
「大丈夫、俺たちがついてるから」

「これ完姉様が一人で書いたのかな…?いつの間に探ったんだろう…」
訝しがる秀頼に重成は耳打ちした。
「…これって戦が起こった時に使う避難ルートですよね…?」
「そうだね…」

翌日から探検ごっこが始まった。
遊びをリードしてくれる完姫やフォローしてくれる由衣がいなくなったことで、寂しかった千姫たちだったが重成のリードや秀頼のフォローで今まで以上に楽しい毎日を送ることとなった。
毎日が足早に過ぎていく。


後日、勧修寺光豊が手紙を持って豊臣家を訪ねてきた時に、完子たちの京での様子を教えてくれた。
完子の輿入れの行列は京でも注目の的で、その美しく華やかなパレードを一目見ようと大勢の人々が集まった。
豊臣家の行列はただ豪華なだけではない。
お菓子と銭の入ったプチギフトを輿の上からばら撒くのだ!
民衆は多いに沸いたという。
「さすが太閤様のとこの姫君だ!」
「豊臣家、万歳!」
「九条家、万歳!!」

「…と、大評判でしたよ」
それを聞いてみんな安心したが、
そのお祭り騒ぎを見て京都守護代の板倉勝重が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたことはまだ誰も知らない。


完子との結婚を期に、九条兼孝は家督を息子の幸家に譲り隠居することにした。
関白職は摂家で持ち回りで行なっている。
後任は近衛(このえ)信尹(のぶただ)に託された。
< 26 / 170 >

この作品をシェア

pagetop