花のようなる愛しいあなた
あの頃の違和感はひどいものだった。
父が亡くなり、媚びへつらって来た家臣たちが遠巻きに接するようになって来た。
丁寧なんだけど、どこかよそよそしいというか、
何かを画策しているというか、
誰もが含みを持っているような…。
そんな
嫌な雰囲気を醸し出していた。
当然城の空気はどんよりくすんでいた。
文官たちは神経質に走り回り、ヒソヒソと誰かの悪口をしきりなく言っていて。
変な空気になってるな、とは感じていたけど
具体的にどうかはわかっていなかった。

ある日、徳川殿が挨拶に来て言った。
「加賀の前田家に謀反の疑いがございます」
前田家といえば、傳人だったじいやの家じゃないか…!
そんな前田家が僕を裏切るなんて信じられなかったし、それ以上に頭に来た。
だから、謀反人の前田家を成敗する為の許可が欲しいという徳川殿の願いを二つ返事で受けてしまった。
まもなく、それは収まったから問題ないとの説明を受けた。
どう収まったのかはよく分からなかった。
そういうものなのであろう、と納得することにした。
しかし、今度は上杉家に謀反の疑いがあると徳川殿は言った。
前田の次は上杉か…。
どうして次から次へと問題が起こるのか。
僕は頭に来て徳川殿に出兵の許可を出した。
徳川殿が兵を挙げて城を出ると、すぐに文官達が沢山の資料を持ってやって来た。
父が亡くなってから後の”徳川殿がしでかしたルール違反”の一覧表だった。
詳しいことは理解できないことも多かったけど、徳川殿こそ僕を裏切っていると彼等は言ったんだ。
僕は驚いた。

誰が真実を言っていて、誰が嘘を言っているのか…。
僕にはまるでわからなかった。
混乱したけど、母さんにすすめられるがまま「徳川家康討伐令」にサインして石田殿を送り出した。
本当に大丈夫なんだろうかという思いはあった。
徳川殿が裏切り行為を行なっているようには見えなかったからだ。
背後から襲撃するなんてそんな卑怯な真似許されるんだろうか。
何でこんなことになったのか。
僕は本当に正しいことをしているのか。
石田殿たちは大軍を集め城を出て、まもなく徳川軍に敗北した。

数日後、徳川殿が戦勝報告をしに大坂城に帰還した。
徳川殿は怒ってた。
当然だ。
自分を殺す許可を出したのだから…。
僕は報復として殺されると思った。
けれど徳川殿は
「子どもや女子を騙すような情けない真似をして」
と嘲笑を浮かべ、僕を許した。
そう、僕は許された。
そして責任は全て石田殿が取らされた。
宇喜多殿も真田殿も小西殿もみんな僕の傍からいなくなった。



沢山の家臣を失った
沢山の家が潰された
沢山の者が死んだ
僕のせいだ
命は元には戻らない

襲い掛かる重圧と
後悔と
虚無感に
毎日襲われる

どうすれば良い?
あの時
どうすれば良かった?
あの時
今の僕がいたら、どうした?
何ができた?
どうすれば
戦いを回避して皆死なずに済んだだろうか…
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