身代わり王女の禁断の恋
午後のひととき、私は思いを巡らせる。


婚約者候補…

どうしよう。

どうすればいいの。

ハールに会いたい。

今!
明日ではなく今、ハールに会いたい。

募る想いを抑えきれなくなった私は、部屋を飛び出した。

長い階段を駆け下り、目に付いた使用人に傘を借りて、そのまま城を飛び出した。

庭を抜けて、森へ入る。


雨の森はいつにも増して暗い。

小鳥のさえずりもなく、ただ打ちつける雨の音だけが響いている。

それでも、私は森を奥へと走る。

広場に着いたけれど、当然、そこにハールの姿はない。

思えば、私はハールのことを何も知らない。

答えられない私に問い返されるのが怖くて、何も聞けなかった。

ハールがどこに住んでいるのかも、どんな身分なのかも、どんな仕事をしているのかも、家族は誰がいるのかも、フルネームさえも。

こんなに好きなのに、何も知らない。

傘を差しているのに、私の頬をいくつもの雫が流れ落ちていく。

ドレスにいくつもの染みを作りながら、私は傘を閉じて作業小屋の扉を押し開いた。
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