※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。


へ?と状況も分からないでいる私の視界いっぱいに怖くなるほど整ったユキの顔が映ったかと思うと、唇が重ねられた。


そして舌が侵入してくる。

コロンと口内で飴玉がぶつかり合う音がする。酸っぱい方の飴玉が奪われる。


その間、わずか十数秒。


ごくっと自分の喉が鳴る。

飴玉を飲み込まずに済んだのは幸いだった。


なにが起こったのか分からずにいる私を砂浜に置き去りにしたまま、体を起こしたユキは見たことがないほど大人っぽく口の端を持ち上げ笑んだ。


「仕返し」


その瞬間、心臓がこぼれ落ちそうなほどに暴れ出す。

体中の血液が沸騰したように熱くなる。


今のキス、なに……。

こんな色気に満ちた顔をするユキ、知らない。


私を散々振り回しておいて、ユキは何事もなかったかのように眉尻を下げて苦笑した。


「たしかに酸っぱいね、これ」


ユキは笑っているけど、それどころじゃない。

私は「ばか」とだけ小さく呟き、ベンチに寝そべったまま腕を額に乗せた。


こんなに顔が熱くなるのは間違いなく、ユキのせい。

高校に入学してから付き合ってきた人は今までたくさんいたけれど、自分の心臓がこんなにも暴れる音を聞いたのは初めてだ。


自分の中でユキの存在がどんどん大きくなっていることを、私は認めざるを得なかった。





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