※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。
紙を持っているせいでユキのセーターの袖が落ち、袖口から白い手首とは相反した黒い腕輪がちらりと顔を覗かせていた。
「俺たちがまず注目したのは……」
その裏で、グラフを描いた画用紙を磁石で黒板に貼ろうと大村さんが背伸びをしている。
けれど大村さんの小柄な背では、いくら背伸びをしてもなかなかうまく貼れず、苦戦しているようだった。
するとそれに気づいたユキが、すかさず手を伸ばして、彼女の手から落ちそうになっていた画用紙を受け止めた。
「あ、ありがとう、ユキくん」
「どういたしまして」
顔を下げ、大村さんに微笑みかけるユキ。
その光景をぼんやり見つめながら私は、まるでフィルターを通した映画でも見ているかのように、とても遠い場所で起きている絵空事みたいだと思った。
優しい者同士お似合い。
ユキは多分、大村さんみたいに優しさをありのままに受け止められるような子と一緒にいた方が幸せになれる。
私なんか、ユキに好きになってもらう資格がない。
高みの見物をしていられるこっち側から、見下されるだけのあっち側に足を踏み入れる勇気がないのだから。