※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。


気づけば、机の上でぎゅっと握りしめるこぶしに力がこもっていた。


――雨が嫌い。マラソンが嫌い。数学の二次関数が嫌い。パセリが嫌い。生乾きの匂いが嫌い。勝手な大人が嫌い。


だけど一番嫌いなのは自分自身。

臆病で卑怯な自分が、この世で一番大嫌いだ。


画用紙が綺麗に黒板に貼られ、発表が再開したところで、不意に隣に座る舞香がこそっと耳打ちしてきた。


「なにあれ。弾かれ者同士で絆でも芽生えたのかな。なんかうける。ね、はのん」


そうだね、って早く言え。頷け。笑え。

頭のどこかでそう必死に訴えている自分がいる。


だけど、咄嗟に口をついて出た言葉は。


「……ごめん、ちょっとトイレ……」


そう口にするなり、呪縛から解かれたように、私は席を立って教室を駆け出た。


突然のことに教室がざわついたのが分かったけれど、一度飛び出してしまえば、そこに戻る勇気だって私にはなかった。

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