キンダーガーテン五      ~ここが居場所~
歩み

結婚式

コンコン。

「失礼します。」

扉を開けると先ず飛び込んできたのは

大きな鏡。

真っ白なお部屋には

プリンセスのような猫足の椅子とテーブル。

カラフルな花に囲まれた先には

………………とても綺麗なプリンセス。

そう、今日の主役の尋ちゃん。

「尋………ちゃ………………ん。」

本当は

『綺麗だね!』

『おめでとう。』って声をかけたいけど…………

無理!

「ふぇ~ん。」

大泣きの唯に

「あらあら、花嫁さんよりも。」って、介添えをして下さる

担当さんにも笑われてしまうほど。

「良いんです。
お姉ちゃんは、こうでないと!
私の分も泣いて喜んでくれるんです。」って。

「式場はどう?
和くんは、見た?
お父さん、緊張してなかった?」

ここでもしっかり者の尋ちゃんに色々質問されて

首を振るのが精一杯。

何とか涙をこらえ

「尋ちゃん…………これ。」と渡したのは

水色のリボンをつけた小指程の小さなウサギのぬいぐるみ。

「………………これ…………?」

そういうと

それまで笑顔を見せていた尋ちゃんの目に涙が…………。

「お姉ちゃんが作ったから、不恰好だけどね。
ブルーな物を身につけてたら良いんだって。」

ニッコリ笑う唯に抱きつく花嫁さんは

まだ幼かった頃

「お姉ちゃん、待って~」と着いてきてた尋ちゃんのまま。

このウサギのぬいぐるみを、いつも握りしめていた。

それなのに…………いつの間にかベッドから失くなっていたウサギ。

もう必要なくなったんだって………寂しく思ったの。

このウサギを…………

これ程大切に思っていたことを教えてくれたのは和也さん。

『尋は擦りきれても直していつも大切にしてます。
俺は、このウサギを見て
唯さんには敵わないと嫉妬してたんですよ。』と…………。

二人の………大切な思い出。

でも本当は、三人の思い出だったんだね。

これからは

尋ちゃんと和也さんと………

いつか出逢う子供たちとの思い出になっていくのかな。

家族の形は変わるけど………

いなくなるんじゃないんだって………。

むしろ、増えていくんだって………

この一年で知ったの。

このウサギは、その象徴。

だから、今日身につけて欲しかったんだ。

「ありがとう。
大切にするね!」

そう言うと、ドレスの下にソッと忍ばせた。
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