たったひとこと
「ほらよっ!」

何冊かのノートが陽菜めがけて飛んでくる。

「危なっ…、…。」

陽菜は売りそうになった喧嘩をおさえて、

「ありがとう。」

作り笑顔でお礼を言う。

「明日返せよ、試験近いんだから。」

「むっ…無理だよ!!こんなに?こんなに!進んだの!?」

「試験前のラストスパートってやつ?」

「最悪…」

陽菜はこんな時期に風邪をひいた自分を恨んだ。
ラストスパートをかけた先生を恨んだ。

「コピーして行けばいいじゃない、ねぇ?」

直希の母親がさらりと言う。

「そうじゃん!」

陽菜の表情が明るくなる。
そして数冊のノートを直希に差し出した母親が言う。

「直希君、よろしく。」

「直希く…!?俺!?」

君付けされた不気味さと、なぜか使われている理不尽さで声をあげた直希。
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