冷徹御曹司と甘い夜を重ねたら、淫らに染め上げられました
「あれ、もしかして君は知らなかった?」

目を見開いて驚いている私に、佐々岡さんが明るい声で話を続けた。安西部長は軽く俯いて立ち去ろうと一度進めた足をピタリと止めた。

「安西は十年前、うちの会社にいたんだよ」

「おい、余計なことを言うな」

初めて聞く安西部長の過去。

頭の中に真っ白なペンキをぶちまけられたみたいになって放心してしまう。

佐々岡グループは東条のライバルだ。だから毛嫌いしているのかと思っていたけれど、どうやら理由はそれだけじゃなさそうだ。

「営業部のエースだったのに、とんだ不祥事を起こしてね――」

「やめろ!」

珍しく安西部長が声を荒げて背を向けていた佐々岡さんに向き直る。その目には怒りにも似た感情を滾らせていた。

「まぁ、昔の話だ。お互い過去のことは水に流そう」

佐々岡さんが笑ってポンと安西部長の肩に手を載せる。けれど彼は気安く触るなと言わんばかりに振り払う。

「はぁ? 過去のことは水に流そうだと? 笑わせるな。俺は別に水に流すようなやましい事は一切してない。汚物まみれなのはそっちだろ」

「そうやってすぐに機嫌が悪くなるのは変わってないな」

佐々岡さんは口元に冷たい笑みを浮かべた。
< 65 / 170 >

この作品をシェア

pagetop