不死身の俺を殺してくれ
慌てて駆け寄ると倒れていた、その人物は若い一人の男だった。服は血だらけで、男の顔にも自身の血か解らないが、血液の乾いた残滓がこびり付いている。
「どうしよう……。取り敢えず、警察? 救急?」
「…………うるさい」
「し、死んでない!? 大丈夫ですか!! 救急車呼びましょうか?」
男は心底迷惑そうな声を上げながら、身体を起こそうとするが、力が入らないのか再び地面に倒れこむ。
「あ、あの今すぐ病院に……」
「……必要、ない」
瀕死状態の男は尚も頑なに、さくらの案を拒絶する。暫し悩んだ末に、さくらは自身のマンションへと男を連れて行こうと決めた。
今の季節は二月だ。こんな場所で夜を明かそうとするなんて、あまりにも無謀過ぎる。運が悪ければ凍死する可能性も否めない。
このまま放っておいて、翌日にこの男が死体になっていたら、それこそかなり寝覚めが悪い。
「なら、取り敢えず私のマンションに行きましょう。近いですし、手当てをしないと」
返事はなかった。
さくらはそれを了承と勝手にみなし、男の身体に手を回して、二人三脚のようにして抱き起こす。
重っ!!
弛緩している男の身体は、痩せている割には結構重く、さくらは助けようとしたことを途端に後悔し始めた。
「…………」
男の意識は、すでに殆ど無いらしい。
さくらのマンションまで残り数メートル。その前に無事辿り着けるのか。早くしなければ仕事で疲れ果てている自分も男と共倒れしそうだった。