不死身の俺を殺してくれ
 数分後。さくらは自室から大きなタオルと救急箱を手にして、リビングに再び姿を現した。

「取り敢えず、タオルと着替えが必要だよね。先に軽く傷口を流水で洗って、それから……消毒っと……」

「……怒ってないのか」

 甲斐甲斐しく治療の準備を始めたさくらに、煉は恐る恐るに問う。

「何か理由があったんだよね? じゃなきゃ、こんな怪我、しないはずだから……」

 てっきり、呆れられていると思っていた煉は、さくらの答えに驚きを隠せなかった。
 
 本当なら、何があったのか。どうして、こんな傷を負ったのか、色々と尋ねたいことがあるはずだ。それなのに、さくらは煉にその理由を追及することはしなかった。
 
 さくらは慣れた手つきで、煉の身体に出来た傷口を消毒しガーゼで覆う。二度目ともなると、さくらの治療の手際の良さは、前回よりも格段に上がっていた。

 もしかしたら、さくらは再び事が起こることを、予め予想して備えていたのかもしれない。

 それくらい、冷静な判断と対処の仕方だった。

 さくらの応急措置が終わり、煉はガーゼだらけの痛々しい自身を見つめながら、ぽつりと感謝と謝罪の言葉を溢す。

「助かった。……それと、すまなかった」

「うん。心配した。……すごく」

 さくらのその言葉に煉は既視感を覚える。昨日、自分が言い放った言葉がそのまま返ってきたからだ。

 他人に心配をされることなど、もう、二度とないと思い俺は生きてきた。でも、それは間違いだったんだな。

 たった一人で構わない。こんな俺を、嘘でも偽善でも、心配してくれる相手がいるのなら、俺はこの呪われた自分の身体を、少しは許すことが出来そうな気がする。

 煉は不意に、さくらを引き寄せると優しく包み込むように、そっと抱きしめる。

「えっ! なに? ちょっと、煉!?」
 
 痛みを感じさせないように少しだけ抱きしめる力を強めると、更に互いの距離が近付き、呼吸をする息づかいさえ間近に感じた。
 
 血液の通った、さくらの身体の暖かさに、煉の心には安心感が広がり、そして癒されていく。

「……これ以上は何もしない。手も出さない。だから、少しの間だけ……こうさせてくれないか」
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