冷徹部長の溺愛の餌食になりました
「あの日、久我さんは小宮山さんの名前を呼んだんです。久我さんが小宮山さんのことを好きだって知ってたから……だから私は、代わりでもいいって望んだんです」
あなたが微睡んだ目で私を見て、呼んだのは、彼女の名前。
『りさ……』
あの時はただ必死で、代わりでもいいから近づきたくて、それだけで。あなたのキスを受け入れた。
だけどだんだんと欲張りになる私は、自分自身を見てほしいと思ってしまった。
わかっていたはずなのに。
「久我さんは元から私に惹かれてなんてなかったんです。だから……責任を取る必要なんてないんですよ」
彼は言葉なく、表情を固めて私を見る。
だけど、腕を掴む手から力が抜けていく。それだけで彼の脱力感が感じ取れた。
嘘をつくような女だったのかとがっかりしてる?
これで解放されると安堵してる?
いずれにせよ、これでおしまいだ。
「騙してて、ごめんなさい」
その顔を見るのが怖くて、私は頭を深く下げると、久我さんを見ることなくその場からまた走り去った。
形だけの恋人でも、嬉しかった。幸せだった。
いっそうあなたを好きだと思った。
この想いが泡になって消えるのは、いつだろう。
それまではまだ、片想いを続けさせて。