敏腕社長は哀しき音色に恋をする 【番外編 完】
私とピアノ

「神崎さん、この資料作りをお願い。できれば明日の朝までに」

申し訳なさそうに声をかけられた。

私はその書類を受け取った。

「はい、わかりました。これなら今日中に渡せると思います」

「ありがとう。神崎さんは仕事が早いから助かるよ。じゃあ、お願いするね」

そう言って去って行ったのは、3年先輩の男性社員の谷川さん。


私、神崎華24歳。
ここ、須藤コーポレーションで営業課の事務として働くOLだ。

須藤コーポレーションは、食品を扱う会社で、この業界では3本の指に入る大手だ。
先代の社長が会社を興し、みるみる成長させていった。
そして3年前、社長の息子である須藤恭介が33歳の若さで社長に就任した。

息子に社長職を譲ったのは、体の弱い奥さんとの時間を大切にしたかったのだとか。
当初、若くして社長に就任した恭介に対し、不満を漏らす役員もいた。
しかし、それまで恭介は実力で成績を残してきたことに加え、社長就任以来、ますます業績を伸ばす手腕に、表立って不満を唱える者はいなくなった。
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