real face
「佐伯主任、いま何時ですか?」

「20:32だけど。どうかした?」

まだそんな時間なんだ。
やっぱり一旦会場に戻らないと。
このまま荷物を置いて帰る訳にも行かないし。

「私戻りますから、どうぞタバコ吸って下さい、主任」

立ち上がって喫煙室を出ようとした私を呼び止める佐伯主任。

「その状態で戻れるの?蘭さん」

まさかそんなことを言われるなんて。
他人の事にはまるで関心無さそうな感じなのに。

「荷物を置いてきてるんで。誰かに断ってから帰らせてもらうつもりです。本当は誰にも会わずに帰りたかったんですけど」

佐伯主任にもね。

「じゃ、ここでちょっと待ってろよ」

そう言うと、携帯で誰かに電話を掛けだした。

「あ、宮本課長。酔い醒ましに外に出てきたら、蘭さんが調子悪くなったらしくて休んでたんです。顔も悪いし。彼女の荷物持って来てくれませんか?」

『え、まひろが?マジか。いまちょっと部長が電話中で、待ってるとこなんだよ。そんなに時間はかけないつもりだけど。あと、10分くらい待ってくれ。そこ何処だ』

「入口の方の喫煙室です。課長が来るまで俺がついてますから。じゃ、お願いします」

イチにぃを呼んでくれて助かったけど。
ていうか、ちょっと待って。
さっき、なんて言われたんだっけ?

「宮本課長と知り合い、なんだろ?」

この人……なにを知っているの?

「ええまあ。知り合いといえば知り合いですけど」

「俺もだ。イチにぃとは入社する前からの知り合いなんだ」

佐伯主任も『イチにぃ』って呼んでるんだ。

「私のこと、宮本課長はなにか言ってましたか?」

「いや、特には。ただ昔からよく知ってるってくらいしか」

良かった……。
会社の人たちには、親類関係だってことを黙っているから。
親類関係がマズイわけではないけれど、変な誤解とかされたくないし、同じ部署の上司と部下になった今、仕事がやりにくくなるのも困るし。

「あ!主任ったら、さっきドサクサに紛れて私のこと『顔も悪い』なんて言いましたよね!!」

「あ?そうか?俺、そんなこと言ったっけ」

「言いましたよ!女性に対して失礼です!!」

「だってさ、お前いつもケバ過ぎるだろ。メイク崩れて更に最悪。『顔色も』って言ったつもりが本音が出たんだな」


< 10 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop