real face
──朝礼後。

佐伯主任が担当になった案件で、いくつか指示を受けた。
私はラーセク歴5年だから、特に戸惑うこともなく打ち合わせはスムーズに進んだ。
でも、佐伯主任はまだ異動してきて間もないのに、仕事のやり方が的確でとてもスマートだ。
さすが、営業と広報で培われたノウハウは伊達じゃないらしい。
デキる男は何処にいてもデキるのだ、ということだろう。

「さっき、朝礼後に龍崎さんに電話しておいた。次の打ち合わせ、蘭さんをご指名だ。来週の木曜日にRYUZAKI工房に行くように。事前に必要なことを確認するの忘れずにな」

「あの、佐伯主任は?」

「俺はその日、ワーセクとの共同プロジェクトの会議が入ってる。龍崎さんは出張が立て込んでて、木曜日しか時間が取れないらしい。蘭さんだけでOKってことだから、よろしく。以上で打ち合わせ終了だけど質問は?」

「いえ、特には……」

佐伯主任が真顔でジーっと私の顔を見ている

「だ、大丈夫、です」

今度は、フーッとため息を吐いて呆れた様な表情を浮かべた。

「全然"大丈夫"って顔じゃないけど。なんか言いたい事でもあるんじゃないのか?朝礼中も俺の事チラ見してたじゃねえか」

げ!!ばれてる……。
ここはもうチャンスだと思って言うしかない。

「主任、歓送迎会の節は、色々とありがとうございました」

そうよ先ずはお礼を言うのが先よね。
佐伯主任のお陰でイチにぃ以外の誰にも会わず帰る事ができたんだし。

「……俺、お礼を言われるような事、何かした?」

え、とぼけてるの?
それとも、もしかして勘違いしてる!?

「ちっ違います!私がお礼を言いたいのは、アレのことじゃなくって。イチ……いや、課長、そう!宮本課長を電話で呼んでくれた事です。本当に助かりました。ありがとうございました!!」

これで誤解は解けたはず。
しかしお礼を言えただけだし、肝心な話題にまだ触れられていない。

「あ、そう。でもさ、俺そんなことした?」

「まさか、覚えていらっしゃらないなんて事は」

「うーん……。あの時、宮本課長がやたら部長のテンションを上げながら、俺にもガンガン飲ませてきて。記憶が曖昧なんだよな。だからあの日の事は忘れていい。お礼も要らないから」

ちょ、ちょっと!
『忘れていい』ですって!?

「待ってください!本当に覚えていないんですか、喫煙室でのこと……」

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