real face
「喫煙室?俺、タバコ吸わないけど」

「知ってます!っていうか、そうじゃなくて。あの、本当に覚えていないんですか?」

あり得ない!
どうしたら忘れることができるの?
私にとっては、初めての、キス。

『忘れていい』

いやいやいやいや、そうじゃないでしょ!?
信じられない!
このときの私は思いっきり困惑していた。
佐伯主任が、あの時の出来事をすっかり忘れてしまっているなんて。
私の、私の………ファーストキスを奪っておいて。
主任の中では、無かったことになっているの?
どーでもいいって、そういうこと?
そりゃ、主任にとってはキスなんて大したことじゃないのかも知れないけど。

「あのさ、それってもしかして作戦?もしかして計算とか?」

主任、何が言いたいの……?

「悪いけど、俺はそんな簡単に堕ちない」

「え?」

主任の言っている意味が解らない。

「確かにあの日は酔わされてたし、記憶も曖昧だけど。そこにつけ込もうって魂胆か?」

「何言ってるんですか。誰がそんなこと」

「ついでに言っとくけど、俺には色仕掛けも効かねえよ」

色仕掛け?私が!?
どっちかっていうと、仕掛けてきたのはそっちじゃないの!!

「ああそれから、一応忠告させてもらうけど、その化粧なんとかならないのか?」

「は?」

「ケバ過ぎるだろ。23歳になったばかりって言ってたけど、もうちょっと若々しさがあったほうが好感持てると思うけど」

な、なんですって?
化粧は私にとって戦闘服と同じなんだってば!

「俺はもう行くから。今日は部長と外出して、そのまま直帰の予定。俺に電話かかって来たら携帯にメールで知らせて。それじゃ」

朝と同じように、振り返りもせずにミーティングルームをさっさと出て行った。


< 17 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop