real face
「……おい、翔。酷くないか兄貴のやつ。俺のこと極悪人みたいな扱いしやがって!俺が北国に行ってる間にかなり性格悪くなったよな」

「お前ほどじゃねーけどな」

「…………ちっ」

「昔は従妹としてより、1人の女の子として好きだったって。小さくて可愛い妹のような存在だったまひろのことを、いつでもそばにいて独占したかったって言ってました。だけど従妹だからそんな風に思うのは罪なことだと、無理に気持ちを抑えるしかなかったんだって。一弥さん、まひろを従妹じゃなく、妹だと思い込むようにしたらしいです。従妹だったら恋愛対象になり得るから、それじゃダメだって。だから、妹がいいって……」

イチにぃ。
いつも大人の余裕で周りを気遣ってるイチにぃが、過去にそんな辛い思いを抱えていたなんて、ちっとも知らなかった。
イチにぃも恋には不器用な、恋愛初心者だったんだな。
宮本一弥も、普通の男なんだ。

「だから、一弥さんがまひろを好きだったのは過去の話です。過去と決別できたって、はっきり言ってくれましたから。人事異動があって、歓送迎会の時にまひろと佐伯主任のキスを目撃したけど、不思議と嫉妬より嬉しい気持ちになったって。佐伯主任にならまひろを託すことができるって、嬉しかったらしいですよ。もう完全に"お兄ちゃん"の心境ですよね?」

あ……そうか。
だから、俺があのキスの記憶をなくしてたことを怒ってたんだな。
"協定"はペナルティのつもりだったのか?

「……私は今でも一弥さんが、まひろを大切にしていることで文句を言ったりはしません。だって私にとってもまひろは大事な親友だから。それに、一弥さんは出張から帰ってきた翌日に、私の両親に会いに行ってくれたんです。結婚を前提に付き合いたいと、きちんと宣言してくれました」

それは、初耳だな。
有田さんに本気を見せたんだな、イチにぃ。
その行動力は、さすがだ。



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