real face
「なんだよ兄貴。なに勝手に1人で諦めたりして、自己完結してんだよ。大人ぶりやがってさ……。ちきしょう…………」

ドンっと扉を拳で殴る修。

「俺、兄貴のそういうとこが………嫌いだ」

そういう声は少し震えている。

「たまには自分の感情を剥き出しにして、カッコ悪い自分をさらけ出してみればいいんだよ!」

自己中だと思っていた修が、イチにぃのことを考えて、行動を起こしたんだとよく分かった。
蘭さんのためよりも、イチにぃのためだったんじゃないのか?
"S"作戦の真相は……。

「だけど、まだ分からないぜ?」

修、どうしてそんなこと言うんだ。

「もしかしたら、ってこともあるし。まだ俺は最後の最後まで諦めないよ。もう、いい頃かも知れないな」

修がゆっくりと小屋の扉を開ける。
外は静かだ。

「美生のヤツ、何やってるんだ。携帯の電波は途切れ途切れで連絡取れないし」

外に出ていって、何をするつもりなんだ?

修が出ていった後を追って、外に出てみる。
小屋から出て、渓谷の方を向いていた修が、振り返って俺に言った。

「ほら!見てみろよ、翔。これでも過去の話だって言えんのか」

修が手を真っ直ぐに伸ばした。
そしてその腕の先に目を向けると、渓谷に掛けられている吊り橋が少し揺れているのが見える。

揺れているのは風が吹いているからではない。
無風状態の中で橋が揺れているのは、人がいるから……。

吊り橋のちょうど真ん中辺りに人影が見える。
うずくまったまま動かず固まっているような女性と、その彼女をしっかりと抱き締めて守っているかのような男性の姿。
その2人は、微動だにせずピッタリとくっついたままだった。

見間違うわけなんて、あるはずがない。
吊り橋の上で抱き合っているのは…………。

蘭さんとイチにぃの2人だった。






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