real face
「いくらイチにぃでも許せねぇ!何のつもりだ!?」

「人聞きわるいな、翔。ていうかお前、さっき堂々と『まひろ』って呼んだだろ?協定違反と受けとるが、いいのか」

「もうそんな"協定"なんて知るか!クソ食らえだ。…………行こう」

私の手を取り、ズンズンと歩き出す主任。
何かを思い出したようにふと立ち止まり、イチにぃを振り返った。

「有田さんは立派だった。早く安心させてやれよ、イチにぃ」

そしてまた歩き出す。
たどり着いたのは、山小屋らしき小ぢんまりとした可愛らしい建物。

小屋の中に入り、扉が閉まると同時に、私は息が詰まるんじゃないかと思った。
主任が、力強く私を抱き締めてきたから。
ついさっき、イチにぃに抱き締められたばかりだったけど、イチにぃと佐伯主任では全然感じ方が違う……。

イチにぃのは、怖がる私を安心させてくれる"お兄ちゃん"の暖かいハグ。
佐伯主任のは、私を必死に求めてくれている"恋人"の熱い抱擁。

私だって、ずっと求めていた。
だから主任の背中に手を回して、ギュッと抱きついた。
ずっとずっと、こうして主任に抱き締められたかった。

「まひろ、俺はお前が……まひろが好きだ。ずっと言いたかったんだけど、遅くなってごめん。誰にも渡したくない、イチにぃにも」

一緒だ……。
私が伝えたかったことと一緒だよ。
私たち、同じような想いを抱えて来たんだね。
私も、先ずは自分の想いを伝えなくちゃ。

「私も、どうしても伝えたくてここまで来たんです。私、佐伯主任のことが大好き。誰よりも、好きです。なつみんに嫉妬して、避けたりしてごめんなさい。それで、あの、主任に聞きたいことが……」

「後で聞くから、今はもう黙って」

主任が『黙って』の言葉を言い終わらないうちに触れた唇。
その性急なキスに身も心も翻弄されていく……。

想いを言葉にして確かめ合った直後だからか、今までのキスとは比べ物にならないくらい、心が震えた。
愛しさが止まらない。

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