real face
まだまだ経験不足で主任とのキスしか知らない私は、されるがままで。
時々、息が苦しくなってもがくように主任のシャツを掴むと、少しだけ唇を離したりずらしたりしてくれるんだけど。
キスの最中で上手く息継ぎなんて、出来るわけがない。

頭がクラクラするのは、キスの熱で頭が沸いてるのか、息ができず酸欠なのか。
意識が飛びそう……。

主任が、足が立たなくなって崩れ落ちそうな私を抱きかかえ、小屋の中に備えられていた椅子に腰掛けさせてくれた。
すっかり息が上がって荒い呼吸を繰り返す私を見つめながら、優しく問いかける。

「で、聞きたい事って?」

なつみんとのことを確かめるはずだったんだけど、正直言ってどうでもよくなっていた。
いつか主任とケンカした時のために、切り札として取っておこう。

「イチにぃが言っていた"協定"って何ですか?」

「ああ、あれか。"M"作戦のための、取り決めっていうか……。ミッションだ」

"M"作戦?
ミッション?

「……詳しく話さないとダメか」

あんまり私には聞かせたくないのか、床にドカッと胡坐をかいて、照れくさそうに私を上目使いに見てくる。

「是非、お願いします……」


シュウにぃが北国から帰って来ると知って、シュウにぃから私を守ろうとしてくれたと知った。

"M"=まひろ
つまり私のための作戦ってこと。

"協定"とは、イチにぃと佐伯主任の間での取り決め。
主任に課せられたミッション。

①名前呼び禁止
②告白禁止
③キスより先の関係禁止

イチにぃに課せられたミッションについては、教えてくれなかった。
イチにぃと主任が警戒していたという"S"作戦だけど、私1人が狙われていた訳ではなかったらしい。
ターゲットは私とイチにぃだったなんて。
シュウにぃはきっと知っていたんだね。
イチにぃと私が両想いだったっていうことを……。
私はついさっき知ったけど。

イチにぃには結局私の過去の想いは伝えられなかった。
でも、これで良かったんだと思える。

「……という訳で"M"作戦は今日で無事に完遂だな」

そう言って今日一番の眩しい笑顔を見せてくれた主任だった。

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