real face

蘭まひろという女  ※佐伯翔真視点

──先週末。
俺は日本最北端の、辺境の地に下り立った。

「おいコラ、何が辺境の地だよ!」

修の引っ越しの手伝いに来たけど、実際に部屋に行ってみるともう片付けはほぼ終わっていた。

「なんだよ俺の手伝い必要だったのか?何を手伝えばいいんだ」

「ああそうだな……。まあとりあえず、俺の話し相手にでもなってくれるか?翔と久し振りに語り明かそうかと思ってな」

この前はシャイニングでの商談と、シャ食での僅かな語らいだったからな。
あの時はイチにぃも一緒だったし。

「2人きりなんて6年振りか?」

すっかり片付いて物がほとんど残っていない部屋を見回すと、机の上にアルバムが何冊か置いてあった。
何気なく手を伸ばしてみる。

「おいおい、勝手に見るんじゃねぇよ」

「見てくれって言わんばかりに置いてるじゃねーか。……ずい分古い写真だな」

そこには小学生の修と、中学生のイチにぃが居た。

そしてもう1人、4~5歳くらいの小さな女の子も写っていた。

カメラ目線で幸せいっぱいな笑顔の、可愛らしい女の子。

修とイチにぃには妹はいなかったはずだけど?

「可愛いだろ~!昔のアイツはめっちゃめちゃ可愛くて、兄貴と俺はいつも取り合いして母さんに怒られてたんだよな」

「……アイツ?」

「まひろだよ、まひろ!」

なるほど、蘭さん。
俺の"彼女"って小さい頃は可愛げがあったんだな、意外。

「従妹だっけ?にしても一緒に写ってる写真多いな」

「そうだろ?兄貴と写るより、まひろと写りたかったからな」

もしかして、そんなに昔から?
子供の頃からずっと好きだったっていうのか……。

「俺たち、いとこ同士っていうのもあるけど、母親同士が物凄く仲が良くてさ。小さい頃は一緒にいるのが当たり前みたいに育ったんだよな」

それで、こんなに写真がたくさんあるんだな。
蘭さんの少女時代の姿を見れるとは。
しかし、これって誰のアルバムだよ。

「修よりも蘭さんの方が多いんじゃないか?」

「そりゃそうだろ!自分のガキの頃を見て何が楽しいんだよ。表情豊かだった頃のまひろに癒されているんだよ俺は」

「表情豊か?」

笑顔の写真ばかりな気がするけど。

「もっとよく見てみろよ。そろそろ出てくるはずだ」

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