real face
「販促イベント、ですか?あの時は確かにナチュラルメイクでしたけど」

どうしてそれを知ってるの?

「迫田から報告受けた時に、アイツが言ってた。蘭さんと親交を深めたいとか言い出したから、断っといたけど」

「あ、迫田さんが」

親交がどうのこうのってのは、スルーしよう。
断ってくれたらしいし。

「ナチュラルメイクでもスッピンでも、仮面が剥がれた酷い顔でも、ケバいのより好きだ」

すっすっすき……?
っていうか!!
ちょっと待って。
いま何か重要なことをサラッと言いませんでしたか?佐伯主任!!

「仮面?剥がれたって……?」

だって、あれは歓送迎会の時、喫煙室で休んでいた時のことだったのに。
あの時のことって、主任は忘れてしまったはず。

「ごめん、言い過ぎたか。あ、でも会社では今のままでOKだから。迫田のような輩が騒ぎ出したら面倒だし。ただし……」

一度言葉を区切ってから、繋がったままの手をギュッと強く握って言った。

「俺と2人きりになるときは、出来るだけ素顔を見せて」

胸がズキューンと貫かれたような衝撃が走った。

『素顔を見せて』

そんなこと、言われるなんて。
どう応えたらいいのか、よく分からなかった。
黙ったままの私に返事を催促する事もなく、何か思い出したように言葉を発した主任。

「あ……そうだった。もし、修が蘭さんに接触を図って来たら、必ず俺に連絡して。出来るだけ2人きりでは会うな」

それは、イチにぃから指示された事?
シュウにぃが私をどうにかするつもりって言っていたし。

それとも、まさか、嫉妬?
なんて、そんなわけないよね。

「分かりました、主任。お疲れさまでした。おやすみなさい」

「ああ、じゃあまた明日。おやすみ」

手が離れて、エントランスに向かう。
中に入る前に振り向いたら、まだ見送ってくれている。
ペコッとお辞儀すると、片手を上げた主任が微笑んでくれたような気がした。

< 91 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop