【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~

9.髪を撫でる指先 - 如月 -



「お嬢様、そろそろご支度の時間です」

光輝さんと一緒に過ごす自宅マンションの自室で、
午前中、ボーっと過ごしていたアタシを呼ぶ三橋の声。


「三橋」

「お嬢様、三橋は嬉しいんですよ。
 旦那様は、しっかりとお嬢様の事を思ってくださってますね。

 今朝も今日の為に旦那様がご用意されたプレゼントを、三橋に託していかれましたよ」


そう言って三橋は真っ白な箱にリボンがあしらわれたものをアタシの前に差し出す。


「お嬢様に旦那様が着てほしい、今日のお洋服のようです」

「って何か行事の為に新しい洋服って。。。
 これじゃ、アタシの洋服に不安があるからって言われてるみたいじゃない」

「まぁまぁ、お嬢様。
 そんなおっしゃりようはあんまりじゃないですか?」


口では何とでもいえる。
だけどどうにもならないのはアタシ自身の心。

言葉にした言動とは裏腹に、
今すぐにでも、その白い箱を開封したい衝動が生まれているアタシがいる。

そう一緒に暮らすようになって数週間。
気が付いたアタシは、アイツの仕草にドキっとしてる。

風呂上がりのアイツ。
アタシの髪に触れるアイツ。
アタシをエスコートするアイツ。

アイツの濡れた髪が、風呂上りに見た真梛斗とリンクする。
そう思い込もうとするけど、それだけじゃないのは一番アタシが知ってる。


アタシの中で真梛斗の存在が薄れていく。
そんな気がして、怖くて怖くてたまらない。



「お嬢様、仕方ありませんわね。
 こちらは私が開封させていただきます」


そう言うとアタシの前で真っ白い箱は、ゆっくりと広げられていく。

中から出てきたのはワンピースと靴、鞄の三点セット。
全てKiryuブランドで統一して用意されたもの。

ハイウエストから裾に向かって広がっていくフレアスカートが印象的なワンピース。
ワンピースの上部分も両腕のレース袖が可愛いけれど、可愛すぎない上品な雰囲気。


「まぁまぁ、お嬢様。とても素敵なワンピースでございますね。
 お色味もカーキーとは、お嬢様の雰囲気を上品に引き立ててくださいますね。

 私はジュエリーを選んでまいりますね」

そう言うと三橋はアタシの部屋を出ていく。

一人になった部屋。
アタシは三橋がハンガーに早々につるしたワンピースに触れる。


ウエスト部分はタッグが作られていて、
ウエスト周囲を細く見させる女性が喜びそうなデザイン。

ふんわりとスケ感のあるスカートは、歩くたびに上品に広がりをみせそうで。
気に入ったか、気に入らなかったかと言えば……悪くはない。


だけど、そのワンピースの中に真梛斗はいない。
あくまで、それはアイツがアタシをイメージしたワンピース。


もう少し真梛斗だったら、ハードな印象のワンピースだっただろう。
チクリと心は痛むけど、その痛みと共に、今も真梛斗を感じることが出来る。


「お嬢様」

三橋の声と共にアタシは慌てて、ワンピースから離れた。


「イヤリングとネクレスをお持ちしました。
 さて、お着替えいたしましょう」

そう言って三橋はアタシの着替えを手伝おうとする。

「ワンピースはアタシが着替える。三橋はそれ以外を」

「かしこまりました。
 ワンピースにお着替えが終わりましたら、声をかけてくださいね。
 外で控えていますよ」


三橋が再び外へ出ていくと、アタシはルームウェアを脱ぎ捨てて、
ワンピースへと袖を通した。

サイズはぴったり。
何処もキツすぎたり、大きすぎたりするところもなくて文句なし。

アイツがアタシの為に選んだ服。
そう思うだけで嬉しさも走るのに、その嬉しさに蓋をして表情を出さないように気を付けながら、
三橋を再び中へと呼び入れた。

三橋によるメイクやヘアセットが終わると、鏡の中のアタシはどこをどう見ても、
街でストリートライブをしていたような人間には見えなくて。

そんなアタシ自身の変身ぶりに、新しい発見をさせてくれた嬉しさと、
今までのアタシは消えちゃうんだという悲しさが入り混じる。


すると予定通りに、玄関のチャイムが鳴らされた。

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