【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~


明け方、涙を流しながら目覚める。


だけど……寝ている間の事なんて、何も覚えていない。
息苦しさに目が覚めると、涙が頬を伝ってる。


スマホを覗くと4時前。

そのままもうひと眠りする気にもなれず、
アタシはベッドの上、壁にもたれるように体育座りをして顔を俯けたままボーっと過ごし続けた。



8時頃。
スマホの鳴り響く音で目が覚める。


ボーっとしながら、うとうとしてしまっていたみたいだった。






おはよう。
如月、帝国ホテルに今から向かいます。

良かったら、如月も早く来てくれないかな?





美織からのメールにアタシは怠い体を起こして、
出掛ける準備を始めた。


どんなに疲れていても、まだ体を動かすことが出来る。
体を動かせる間は、動かし続けて疲れすぎて意識を失う様に眠れれば……今はそれでいい。



流石にシャツとGパンってわけには行かないかっと、
悧羅時代に買って貰った、一張羅に袖を通す。


メイクで軽く変身させると、アタシは帝国ホテルで待つ美織の元へと向かった。
フロントで美織の名を告げると、ホテルの人へと美容室へと案内された。



「どうぞ、蒔田さま。
 三枝さまが中でお待ちです」


通された中の部屋では一応、
振り袖姿を身に着けた美織が姿を見せる。


「美織……」

「如月、有難う」

「ねぇ、美織。相手の存在はどんな人なの?」

「私より20歳以上離れた人」

「えっ、それってジジイじゃん。
 アンタの親父さんたちも、よくそんな人に娘、差し出す気になったなー」


すると……再び、美容室のドアがノックされて
「美織ちゃんっ」と聞きなれた声が飛び込んできた。



こいつが龍之介こと児玉龍之介(こだま りゅうのすけ)。
美織の彼氏。


「龍くん……」

「オレ、生きた心地しなくて、仕事ほったらかして来ちゃったよ」


そんな風に言いながら、龍之介は美織の前で、オイオイと涙を流す。



あぁ、男のくせに泣くなっ。
うっさい、うぜぇー。


「美織、龍之介と一緒に行きな。
 その振袖は、アタシが借りる」


そう言うと、せっかく着付けた美織の体から帯をほどき、着物を脱がせていく。

着付けをしていた美容師さんたちが戸惑う中、アタシは手早く着付けをすすめて、
アイツらをこの部屋から追い出した。


帝国ホテルのロビーが待ち合わせっていってた。
だったら、とりあえずそこに行ってみるしかない。


準備が整ったところで、私はホテルのロビーへと歩みを進めた。


ロビーの一角のソファーとテーブルが並ぶ、一角へと近づいて、それらしい人を探す。


20歳も年下のジジイ。
どうせ、いやらしい奴なのかもしれない。

そんなよからぬ想像をしながら、キョロキョロと視線を動かしていく。




すると背後から、肩をトントンと叩いて「美織さんだねー……」っと呼び止める男の声が聞こえた。

腹に力を入れながら、覚悟を決めるようにゆっくりと振り返った途端に、
脂ギッシュな小太りのおっさんが臭い息を吐き出しながら、タオルで顔を拭きつつこっちを見つめた。




えっ?
ジジイだとは思ってたけど、此処まで?

ちょっとこのレベルは想定してなかった。



「えっと……」


一発、ガツンと美織の代わりに断ってやろうと思ってたんだけど、
タイミングがそがれた。



「今日は、おじさんのためにこんなにお洒落をして来てくれたんだねー。
 早く、君を脱がせて肌に触れてみたいよー」


えっ?
このジジイ、初っ端からイカレてる?



アタシの想像の斜め上から攻めてくる行動に、
アタシはただ、ジジイを見つめるしかできなかった。


これは……美織にはあわせらんないわ。
美織じゃなくて、アタシも払い下げよ。



「美織ちゃん、上に部屋をとってあるんだ。
 さぁ行こうか……怖がらなくていいよ」



そんなことを言いながら、さりげなく腰にまわしてくる手を、
反射的にハラッて、ジジイの股間を目指して、着物の裾をさばきながら蹴り上げて飛びのいた。



一瞬のうずくまりを見せた後、怒りに顔が沸騰したジジイは鬼のような形相で、
こっちに向かってくる。


振り上げられる拳。
着物の裾に足を取られて叩かれると思った瞬間、
ジジイの腕を受け止めた見知らぬ手。

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