【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~


アタシの真梛斗探しは、始まったんだ。


アタシのSOSのシグナルに気が付いたアイツ。


何時しかアタシの音楽は、SOSを発するものじゃなくて、
温盛をくれる人に聞いて貰いたいものになって、
その人が居なくなった今は、
どうでも良くなって歌えなくなった。



ギターを抱えて歌おうとしたら、喉が詰まって声が出なくなる。


酸素を欲しがる陸に上がった魚みたいに、
パクパクと口を動かすだけで、声なんて発せられなくて。


アタシは、歌うのをやめた。



もう一度、歌うために真梛斗を探し出したくて。
アタシの心は、欠けた欠片【ピース】を欲し続けるんだ。



『きさ……。
 こんなところまで来て……困った野良猫【仔猫】だ……』



そう言いながらアタシに視線を向けて笑いかける。



「真梛斗……。
 やっと見つけたの。

 ずっと逢いたかった……真梛斗と出逢って、
 アタシは弱くなっちゃった……。
 

 ちゃんと責任取ってよ。


 ううん、責任なんて、もうどうでもいい。

 今、真梛斗はアタシの傍にいてくれる。
 もっと早く海にアンタを探しに行けばよかったんだ。

 真梛斗に逢えるなら、暗い海の底でもアタシは探しに行けるんだ。

 ほらっ、ちゃんと捕まえたでしょ。
 捕まえた……」



そうして手を伸ばすアタシの先、
捕まえたと思った真梛斗の腕はアタシの手をすり抜けていく。


「えっ?
 真梛斗、どうして?

 アタシがピアスを失くしたから怒ってるの?
 アタシのこと、嫌いになったの?」


駄々をこねるガキみたいにアタシは、
矢継ぎ早に思いついたことを並べていく。



『きさ……落ち着いて…』


そう言うと、アタシから求めた時は触れることすら叶わなかったのに、
真梛斗の体がびったりとアタシに寄り添う。



「……真梛斗……」
    


『きさ、嫌いになんてならないよ。
 なれるはずない……。

 何処にいても、きさを思ってる。
 きさと光輝を思ってる……』



えっ?
突然、真梛斗が呟いたて名前。

こうき……は、あの光輝?



『ずっと見守ってるよ。

 オレが見つけた可愛い野良猫【仔猫】の幸せを……。
 こんな深い暗闇に捕らわれてちゃダメだ。

 きさ、逢えてよかった……。

 だけど……今度、きさに逢うのはもっともっと後だ。


 ちゃんと迎えに行くから。
 その時が来たら、オレが……きさと光輝を迎えに行くから……。

 今は送ってくよ……。
 きさを待ってる最愛の人のところへ。

 きさ……、アイツを……光輝を頼んだよ』



真梛斗の声に優しく包まれると、
アタシは真梛斗から発せられる光に包み込まれる。

そのまま優しいぬくもりに、
体を委ねるように静かに目を閉じた……。



そう……まるで、
微睡の中で夢を見ている様に……。


求め続けた真梛斗は何処までもあたたかかった。
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