【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~


「お帰り、光輝。
 それに新田もお疲れ様。

 車は南エントランスを出たうちのホテルに預けてるんだ。
 少し歩いて貰ってもいいかな?」

「遅いのに迎えまで有難う」

「別に気にしなくていいよ。
 まぁ、お互い様って言葉もあるし。

 おれだって何時か、頼むときも来るかもしれないだろ。

 向こうにいる裕真も心配してたよ。
 また連絡しておくんだねー」


「了解。
 んで、如月は?」


「藤川海岸」


「藤川海岸?
 真梛斗が好きだった?」

「そう。

 天城の父親に確認した。
 天城が小さい頃から好きだった場所を教えて欲しいってさ。
 
 ほらっ、やみくもに探しても手掛かりないだろ。
 んで、天城の父親からアイツが好きそうな場所を絞っていった。

 そしたら由毅から連絡が入ったんだよ。
 綾音のシステムも借りたいってさ。
 それで、天城の親父さんに聞いた情報を由毅にも共有した。

 その数分後、フレンドキッチンの防犯カメラで如月さんが映ってたって連絡が入って、
 今度は藤川海岸に捜索隊を送り込んだってわけ」


「如月は?」

「心肺停止で海から引き揚げられた。

 裕真からの連絡か裕兄さんの手配かは不明だけど、
 大夢先輩が現場に駆けつけてきて、
 その場で心肺蘇生して神前悧羅にヘリで搬送していった」



俺が如月の為に駆けつけたくても、
どうすることも出来ない叶わなかった時間に、
ずっと動き続けてくれてた母校で出会った頼もしい仲間たち。


そんな仲間の友情と絆によって、無事に発見された如月。



知らされなかったあまりの空白の時間に、俺は現実を知って絶句する。



「それで如月の意識は?」

「おれが病院を離れた時間までには、戻ってないよ。
 今は人工呼吸器を装着して、脳のダメージを最小限にするために低体温で管理されてる。

 後は、如月さん次第なのかもな」


俺が不在だった間の出来事を共有しながら、
過ごし続けた一綺の愛車の中。


一時間半ほどの道程を経て神前の病院へと辿り着いた俺は、
裏口から如月が眠る病室へと向かった。


病院内の三杉関係者専用の特別室のベッドで眠り続けるアイツ。

ベッドで眠らされてるアイツを見ると、
今の状態が、通常ではICUでの管理レベルらしいことが予測される。

病室に足を踏みいれた途端に、
真梛斗の父親である天城が俺に深くお辞儀をした。


「天城、来てくれていたんですね」

「もうすぐ光輝様がお帰りと聞き、こちらで待たせて頂いておりました」

「如月についていてくださって、有難うございます」

「このお嬢さんが……いえ、光輝様の奥方様でしたね。

 奥様と息子が関係があったとは、親の私も気が付きませんでして……。
 この度は、うちの息子が申し訳ないことをしました」

「天城、頭を下げないでください。

 あの事故で真梛斗が死ななかったら、
 多分、今頃は真梛斗は如月をご両親に紹介していたんだと思います。

 あの日、真梛斗はプロポーズをするんだって、俺に言いきってました。

 それと同時に、如月に惹かれている俺自身のこともアイツは知ってましたから、
 俺に、それでいいのかと……。

 今回は真梛斗の思い出の場所を教えて頂いて感謝しています。
 お陰で、如月を見つけることが出来ました」


そう言って真梛斗の父親に深く頭を下げると、
夜も遅いので負担を考慮して帰らせる。



ベッドに眠り続ける如月の目は、まだ開く兆しがない。


病室へと視線を向けると、
如月の状況を知ることとなった神前悧羅で出会った仲間たちが、
それぞれにフルーツの盛り合わせやら、
花などが届けてくれていた。



瑠璃垣伊吹【るりがき いぶき】の名で届けられたフルーツの盛り合わせ。
廣瀬紀天【ひろせ あきたか】の名で届けられたお菓子の盛り合わせ。


その中に紛れてあった懐かしい名前を刻みながら、
俺は一綺へと視線を向ける。

確か、由毅が瑠璃垣のシステムも借りたって言ってたなぁ。
それに紀天、ジュニアだったお前まで……。
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